『人は成熟するにつれて若くなる』ヘルマン・ヘッセ著

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本屋の店頭に『ライフスパン(老いなき世界)』デビット・シンクレア著

という本が並んでいた。

老いは病で治療できる。人は老いないという。

ついに肉体が老いない時代がやってくるのか?得られた知識や知恵をそのままに肉体だけがリセットできる未来がやってくる。さまざまな生き方や働き方を何度も挑戦する時代がやってくる。凄いパラダイムの変換だ。

 

そして思い出したのは精神が老いない話だ。

『人は成熟するにつれて若くなる』(1995)だ。

 心臓の鼓動が衰えてもなお微笑むことを学ばなくてはならない。

長い人生を過ごしたのちの覚えていて活力を失うにつれてそれ以前とは全く異なった関心で見るようになったいろいろなものの姿。見ること、観察すること、瞑想することが次第に習慣となり訓練となって、気づかぬうちに観察者の気分と態度が私たちの行動全体に浸透してくる。

「静観」に到達したことが、どんなに素晴らしく価値あることであるかに驚嘆するのである。賢く辛抱強くなったと考えよう。

新しい空間への転進へ、覚醒へ、新たな開始へと繋がっていく。

老齢になると多くの苦痛に見舞われるけれど、いろいろ賜り物にも恵まれる。その賜り物のひとつが、忘却であり、疲労である、諦めである。これは老人と老人の悩みや苦しみとの間に形成される保護皮膜ともいうべきものである。それは怠惰、硬化、醜い無関心という形を撮る場合のある。しかしそれは、ちょっと別の観点から光をあててみると、平静であり、忍耐であり、ユーモアであり、高い叡知であり、道(タオ)であることもあるのだ。

個性を完成するための覚醒の苦悩を切り抜て、成熟した人格を獲得したのち、

成熟した人間の使命は自我の放棄である。

 

老境について見つめて書かれて良書だ。何度も本棚から出して気が向くところを読んでみる。

何ページか読んで分かったような気持ちになって穏やかに本をとじる。このような本を持てたことで、精神が癒される。