『100分de名著伊勢物語』高樹のぶ子著NHKテキスト2020年11月

伊勢物語在原業平が主人公で、プレイボーイを描いていると言われているが、和歌なのでなかなかとっつきにくい。伊勢物語を題材に描かれている絵画などたくさん目にして、一度読んでみたいと思っていました。100分de名著シリーズはとても読みやすく書かれている。

高樹のぶ子さんが小説『業平』を書いたことでこの本は成り立っている。

業平は、祖父が平城天皇で、薬子の変で権力を脅かしたため潰され、業平のように権力を脅かさない異端は許容された。その能力に対して役割が与えらた。現在は藤原氏の権力は残っていないが、業平の歌は残っている。文化こそが残っていくもので永遠の命を持っている。

雅とは何か?人間の力ではどうにもならないものがある。わからないものをわからないままにしておく。人間にはいつの時代もわからないことがある。叶わないことだってある。それを謙虚に受け止めその事実に耐えその中で最善のことをする。権力は、美や情と対立する。

 

「ちはやぶる神代も聞かず龍田川、

からくれないに水くくるとは」

(神代の昔にも聞いたことがございません。この龍田川の紅葉は、唐紅の色に染めたように紅くまだらに錦をなしております。なんと華やかで哀れなことでございましゃう。)

我らが大挙して紅葉を見にいく日本の心がここにあると言える。

 

「行く水と過ぐるよはひと散る花と

いづれ待ててふことを聞くらむ」

(川の流れは止まることがない。満開の桜はやがて散る。その散りゆく花の中で自分も死にたい)

移り行くものに人生を重ね合わせる無常感。

こちらもまた、大挙して桜を見にいく日本人の心がある。

 

長い時の中で日本人に根付いた人生観。この感性は、千百年前の伊勢物語の中にすでにある。平安の昔に業平が放ったボールを受け止めて欲しいということだ。

 

業平の最後の妻となった人は、悟子につかえていた伊勢という女性だったという説がある。そこから伊勢物語と名付けられたとしたら趣があると思う。